活動_熊本県立大学での集中講義「比較住文化論」

12月24日から3日間において、熊本県立大学環境共生学部の比較住文化論という集中講義を行った。世間はクリスマスイブだというのに、学生にとっては非常に迷惑な講義である。

この講義は自身の専門分野に深く関わるため、講義内容を組み立てるよりも盛り込みすぎた内容を削る作業に労力を費やした。
ただし、住文化を比較しながら考えるというのは非常に難しく、特に学生に興味を喚起するためにいろいろ悩んだが、やはり導入はわが国における集落の特徴について紹介した。特に立地特性に着目した場合、その構造は大きく6つの形態に分かれることを述べた。それから民家の特徴について、そもそも民家とはなにか。なぜ民家は滅びなければならなかったのか。民家の持つ空間的特徴とその美意識とはなにか、など問題提起した。

次に沖縄の集落の特徴では、古琉球と呼ばれる時代の血縁関係で結ばれた中世村落が近世期の計画的村落に大きく変化したにもかかわらずその系譜的なつながりが脈々と受け継がれてきたこと。また抱護(ほうご)、つまり抱いて護るという環境観が沖縄の集落構造のなかに見いだせることなどを述べた。次に東アジアの集落・民居の特徴では、今まで自身が訪れた中国・台湾の集落を中心に、特に客家(はっか)の集落構成について述べた。土楼や囲龍屋などの「囲む」空間構成は、実は沖縄の「抱護」と極めて類似していることを指摘した。

ところで、今回の講義は住文化を比較することが目的であるので、欧米の住居・集落・街にも触れておいた。カナダバンクーバーの美しい自然に囲まれた都市居住、サンフランシスコ郊外の自然住宅地の豊かな暮らしを紹介し、ファーストガーデンシティ・レッチワース(イギリス)まで盛りだくさん(学生には情報過多)の講義であった。
まとめとして、自身が関わった神戸・ガーデンシティ舞多聞の実験について住民と共に創り上げる自然住宅のプロセスと、そこには向こう三軒両隣というごく当たり前のコミュニティデザインを目指したこと、またコミュニティ形成だけではなく、そのマネジメントが実は重要だということなどを重点的に述べた。そして最後にこの住宅地は時代の先端を行くデザインを追い求めたのではなく、先に述べた集落の空間構成や民家が持つ空間的特徴と深く関わっていることを伝えて3日間という短くて長い講義を終えた。

この3日間、講義を行いながら不思議な感覚を覚えた。それは自身で講義をしながらも講義を聞いている大学生の自分がいたということである。かつて、目の前の彼らと同じ大学2年の時に私が受けた恩師の講義で初めて見た世界中の集落に、今まで感じたことのない高揚を覚えたあの時の自分がいたような気がした。あの時の僕は今の僕の講義を聞いて少しでも高揚してくれるだろうか。


講義風景


学生がまとめた美しい即日レポート